「おやじと行った海が見える」 旭川市 Y・A

 私は、青信号で横断歩遣を渡っている。右折の車2台がスピードも落とさず、連なって私の前を横切ってゆく。2台の車の運転者は若い仲間達のようだ。
 私は、彼らを睨みながら、「あんた達に挙げる命なんか一つもないんだからね」と心の中で叫んで居る。
 私になにかあれば、私の子供達は、二親を事故で失う事になる。絶対にそれだけはあってはならないと思っている。

 8年前、道路を横断中の夫を交通事故で失っている。
 その時、3人の子供達は、11歳、9歳、4歳だった。末っ子はほとんど父親の記憶がない。それなのに、テストの問題に「あなたの思い出の窓には、何が写りますか。」という答えに、「おやじと行った海が見える」と書いた。毎年、夏になると、子煩悩な夫は、浜益の海に子供たちを連れていって遊ばせた。遠い記憶の中で、そのシーンだけが思い出されるのだろう。
 私は、それを読んでボロボロと泣いてしまった。時の過ぎていくことだけが心の傷を癒してくれる薬だと思って、この8年間を暮らしてきた。

 あの若者達に、私達家族の苦しみや悲しみなんて見えないだろうけど、いつか、あの人達も家族を持つ時がくるでしょう。命の大切さをもっと考えてほしいし、車は運転者によって走る凶器になることを知ってほしい。