「誠意ってなんですか? それはお金ですか?」
室蘭市 及川 正子

 「誠意ってなんですか?それはお金ですか?」加害者の口から出たこの言葉私の頭から一生消え去る事はないでしょう。
 人間として最も大切にしなくてはいけない人の命と事故を起こした責任感と罪悪感が軽視され、事故を起こしたら保険があるからとか、保険屋に任せておけばいいなどと、背筋の寒くなるような考えを持って運転している人・・・。
 人の命は、尊いもの、この世に一つしかない掛け替えのないものなのです。

 正月も抜け切らぬ1月4日、電話のベルが主人の事故を知らせた。通報者は加害者、いたって冷静な声で、「ご主人が事故に遭いました。今救急車を呼んでいます」、私は「どんな具合ですか、命に別状はないんですか病院はどこですか」の問いかけに、加害者は、「消防署に聞くとわかるんじゃないですか」と・・・
 病院に運び込まれた主人は、無惨としか言い様のない、顔面蒼白、体中が血だらけで、幸い一命は取り留めたものの瀕死の重傷、震えて立ちすくんでいる私達に、やっと出てきた加害者は「全部保険屋さんにまかしてありますから」と何を言っても「保険屋さんに聞いて見ますから」とあまりの情けなさに「誠意はないんですか」と言ったところ、加害者は、「誠意って何ですか?お金ですか?」ですって。悔しくて涙も出ませんでした。

 二度の大手術で何とか命びろいをしましたが、座ること、胡座をかくこと、しゃがむことも全部だめで、重度の身体障害者になってしまいました。毎日3回の痛み止めを飲む生活に体調を崩し、体の調子が悪くても後遺症のためと思って我慢し続けたため、気づいた時は、ガンの末期で、1年の闘病後、今年2月、悔し涙を流しながら天国へ旅立ちました。
 主人は、これからの二人の人生を考えて35年勤めた会社を60歳で退職、資格を取りに行ったり、旅行に行ったりと頑張っていた矢先、散歩の途中にこんな結果になるとは・・・・・。

 人の命は物ではないのです。生きているのです。どうして、心から償うという気持ちになれないのでしょうか。加害者の彼が、私達と同じ立場に立った時、
    「誠意ってなんですか? それはお金ですか?」
といわれたら、なんと答えるでしょうか。
 その後、加害者からは何の音沙汰もありません。