2023/11/18「世界道路交通被害者の日・北海道フォーラム2023~交通死傷ゼロへの提言~」開催報告
11月第3日曜日は、国連が2005年に定めたWorld Day of Remembrance for Road Traffic Victims(世界道路交通被害者の日 ワールドデイ)でした。
北海道交通事故被害者の会は、2023年11月18日(土)、コロナ禍で4年ぶり開催となる「世界道路交通被害者の日・北海道フォーラム2023」を開催しました。
会場の札幌市中央区「かでる2・7」大会議室には、市民と関係者、被害者の会会員など約60人が集い、交通死傷ゼロへの誓いを新たにしました。
なお「世界道路交通被害者の日・日本フォーラム」(小栗幸夫代表)は、今年も11月19日夕、東京都港区芝公園で、テレビ塔を背にキャンドル集会を行っています。
以下は、本フォーラムで行われた、ゼロへの願いと基調講演等の概要報告です。
詳細については、引き続き本サイトでの追加記事、そして、来年2月発行予定の会報69号にて行います。
目次
World Day of Remembrance for Road Traffic Victims(世界道路交通被害者の日)
「交通死傷ゼロへの提言・北海道フォーラム」に60人が集う
2023年11月18日 「かでる2・7」
日時・会場:2023年11月18日(土)、13:30~16:20 札幌市「かでる2・7」
主催:北海道交通事故被害者の会
後援:北海道、北海道警察、札幌市
協力:世界道路交通被害者の日・日本フォーラム、クルマ社会を問い直す会
第1部 ゼロへの願い
~こんな悲しみ苦しみは 私たちで終わりにして下さい~
被害者の訴え①
「ひき逃げ被害死から10年、今も亡き娘から“私の命はそんなに軽いの”という声が聞こえます」
飯田今日一さん
第1部「ゼロへの願い」では、最初に、北広島市の飯田今日一さんが、標題のように、当時23歳の娘さんを悪質なひき逃げで奪われた無念(会報45号p1)と、刑事司法の課題について訴えました。
加害者は、事件前に速度違反など8回の違反歴があり、救護義務も果たさない悪質な行為でありながら、執行猶予の付いたあまりに軽い刑事罰。飯田さんは、「(命の尊さを知らず運転した)行為の結果に基づいて重く裁き、交通犯罪被害を根絶して欲しい」と、訴えを結びました。
被害者の訴え②
「小学4年の娘は青信号でひかれ義足になりました。歩車分離信号など クルマを凶器とさせない社会を切望します」
ポタサニャー朱月さん
続いて、函館市のポタサニャー朱月さんは、4年前、青信号の交差点を、手をつないで渡っていた当時9歳の娘さんが、右折の大型トラックに轢かれ、右足切断・義足となった被害(会報64号p1、65号p4)について、その詳細と再発防止策を、切々と訴えられました。
ポタサニャーさんは、加害者が、悪質違反の前歴を持つのに軽く裁かれ、それが危険な運転行為につながっている現在の刑事司法の問題とともに、イギリス人のご主人が、事件前に「日本の交差点は、何て危なくてクレージーなんだ」と指摘していた日本の信号システムの遅れを指摘。イギリスのように全ての交差点を(人と車が同じ青信号で交わらない)歩車分離信号とすることを強く訴えられました。
第2部 ゼロへの提言
基調講演「交通死傷ゼロへの課題~行動科学からのアプローチ~」
埼玉県立大学 白岩 祐子 氏
講師の白岩祐子氏は、前回(2019年フォーラム)講師の諸澤英道氏に師事された研究者の方です。
専門は被害者学、社会心理学と幅広く、本フォーラムでは、研究テーマの一つである「人間の実態をふまえた政策立案」から、標題テーマについて講演されました。
※参考「ワールドデイ・フォーラム2019」の報告 | 北海道交通事故被害者の会
講演では、近年、英国・米国など世界各国で政策活用が推進され注目されている「行動インサイト~行動科学の知見から、環境を変える~」の理論を交通政策に取り入れることの意義と重要性が、歩車分離式信号など具体例を交えて分かりやすく説明されました。(※編集者注 インサイト:洞察、物事を見抜く力)
……人間は固有の癖を持ち、しばしば判断エラーをおかし、規範や合理性から逸脱する。交通死傷につながるこれらの問題解決策として、個人(癖、判断、意識)だけでなく、環境に働きかける(車・道路などを変える)という、交通政策のパラダイム転換により交通死傷ゼロは実現可能。北海道交通事故被害者の会が発足以来続ける要望活動は、学術的・社会的に大きな意義を持つ……
などなど。
私たち会員はじめ、参加者の皆さんに、改めて確信と勇気を与えていただいた基調講演であり、参加者からも「社会心理学の話がとても勉強になりました。環境面からのアプローチは、非常に有効であり、会の活動で以前より訴えていたことと合致していることがわかりました。」など、感想(後掲)が寄せられています。
白岩祐子氏 プロフィール
常磐大学大学院(被害者学専攻 修士 ※諸澤英道氏の指導を受ける)、東京大学大学院(社会心理学 博士)、東京大学総合教育研究センター特任助教、同大学院人文社会系研究科講師を経て現職。
専門は、被害者学、社会心理学。研究テーマに、公共政策と心理学、司法の民主化など。著書に「ナッジ・行動インサイト ガイドブック」(勁草書房)、「理性への希求」(ナカニシヤ出版)、「入門 司法・犯罪心理学」(有斐閣 第15章「司法と被害者~忘れられた存在からの脱却」など。
ゼロへの誓い
会場発言
会場発言で、テーマに関連して、遠路群馬県より参加の「命と安全を守る歩車分離信号普及全国連絡会 群馬事務局」の黒崎陽子さんが、愛息涼太さん(当時13歳)の被害事件にも触れながら、大型トラックの交差点右左折の危険性と歩車分離信号の必要性について、動画を交えて訴えられました。
関係機関より
続いて、本フォーラム開催に後援いただいている関係機関より道環境生活部くらし安全局道民生活課 課長 箱崎和好氏、道警察本部交通部 管理官 河野芳範氏の両氏から、暖かく力強いご挨拶を受けました。
「交通死傷ゼロへの提言」採択
おわりに、主催者より「交通死傷ゼロへの提言」が提案、確認されました。
交通死傷ゼロへの提言
2023年11月18日
世界道路交通被害者の日・北海道フォーラム
近代産業社会がモータリゼーションとともに進行する中、この利便性を享受する影で、「豊かさ」の代名詞であるクルマがもたらす死傷被害は依然として深刻で、命の尊厳とは何かという根源的問いが突きつけられています。
人間が作り出した本来「道具」であるべきクルマが、結果として「凶器」のように使われている異常性は即刻改められなければなりません。
「交通死傷ゼロへの提言」をテーマに本年も集った私たちは、未だ続く「事故という名の殺傷」を根絶し、「日常化された大虐殺」という言葉を過去のものとするために、以下の諸点を中心に、わが国の交通安全施策の根本的転換を求めます。
第1 交通死傷被害「ゼロ」のための施策推進を
憲法が第13条で定めているように、人命の尊重は第一義の課題です。「第11次交通安全基本計画」の基本理念には「究極的には交通事故のない社会を目指すことを再認識すべき」と記されていますが、「究極的には」でなく、目標としてゼロの実現を明記し、政策の基本に据えるべきです。減らせば良いではなく、根絶するにはどうするかという観点から、刑法や道路交通法など法制度、道路のつくり、対歩行者を重視した車両の安全性確立、運転免許制度、交通教育など施策の抜本的改善を求めます。
第2 クルマの抜本的速度抑制と規制を基本とすること
これまでの長い苦難の歴史から私たちが学んだ教訓は、利便性、効率性、そしてスピードという価値を優先して追求してきた「高速文明」への幻想が、人々の理性を麻痺させ、真の豊かさとは相容れない危険な社会を形成してきたということです。安全と速度の逆相関関係は明白です。施策の基本に速度の抜本的抑制を据えるべきです。
不確かな「自動運転車」に幻想を持つのではなく、今あるクルマの速度規制が急務です。クルマ自体に、規制速度を超えられない制御装置やドライブレコーダー装着を義務化し、速度と安全操作の二重三重の管理を徹底すべきです。
第3 歩行者保護と居住地の交通静穏化を徹底すること
子どもや高齢者の安全を守りきることは社会の責務です。道路は住民らの交流機能を併せ持つ生活空間であり、決してクルマだけのものではありません。子どもや高齢者が歩き自転車が通行する中を、ハードなクルマが危険速度で疾駆し、横断歩道での歩行者優先(道交法38条)が守られていないなどの現状を今すぐ改め、横断歩道のある全ての交差点を歩車分離信号に変え、生活道路における通行の優先権を完全に歩行者に与えるために、速度を少なくても30キロ以下に一律規制(「ゾーン30」など)し、交通静穏化を実現しなくてはなりません。
同時に、財源措置を伴う公共交通機関の整備を進め、自転車の更なる活用と安全な走行帯確保を緊急課題と位置づけるなら、道路の交流機能は回復し、コンパクトな街並みは活気を取り戻すでしょう。それは、住民の生活の質をも豊かにし、全ての市民の基本的人権の保障につながるのです。
参加者アンケート
以下は参加者アンケートの抜粋です。沢山の方から貴重な感想、意見が寄せられました。
資料 フォーラム2023のチラシ
「世界道路交通被害者の日・いのちのパネル展」
2023/11/15 札幌駅地下歩行空間
いのちのパネル実行委員会(小野茂実行委員長)は、今年も、札幌市市民文化局区政課の協力を得て、「いのちのパネル展」を札幌駅地下歩行空間(北3条広場)にて行いました。
道行く市民の方多数が立ち寄り、痛切な写真と手記の前に佇んでおられました。(写真)
参考