2020/10/9 北海道知事宛「交通犯罪被害者の尊厳と権利、交通犯罪・事故根絶のための要望書」を提出
2020年10月9日、北海道知事宛に「交通犯罪被害者の尊厳と権利、交通犯罪・事故根絶のための要望書」を提出しました。
「交通犯罪被害者の尊厳と権利、交通犯罪・事故根絶のための要望書」(PDF)
交通犯罪被害者の尊厳と権利、交通犯罪・事故根絶のための要望書
令和2年10月9日
北海道知事
鈴木直道殿
北海道交通事故被害者の会
代表前田敏章
交通犯罪被害者の尊厳と権利、交通犯罪・事故根絶のための要望書
憲法は「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」(憲法13条)と謳っています。しかし、交通犯罪・事故の犠牲者は、今も死者が年間3,920人(2019年、警察庁交通局統計30日以内死者)に達し、負傷者も年間46万1070人と、国民のおよそ270人に1人が被害に遭うという深刻な事態が続きます。北海道においても、2010~2019年の10年間で、1,734人の死者(24時間内)、15万2486人の負傷者という甚大な犠牲です。本年に入りコロナ禍の中でも交通被害は減っていません。
他の事件に比べ、道路上での車両による事件や事故については、未だに交通犯罪という認識は薄く「事故だから仕方ない」「運が悪かった」と軽視され、被害ゼロへの抜本対策が不十分です。結果として多数の被害が続き、子どもや高齢者、歩行者、自転車の犠牲も後を絶たないという、人命軽視の麻痺した「クルマ優先社会」が続いています。
交通犯罪によってかけがえのない家族を失う、あるいは後遺障害などにより人生をも変えられるなど、深く傷つけられた私たち被害者のせめてもの願いは、尊い犠牲が生かされ、真に命と人権が護られる社会がつくられることです。交通犯罪被害者の尊厳と権利を護り、現代の最大の人権侵害ともいうべき交通死傷被害を根絶するため、以下の事項について、抜本的で具体的な改善を要望致します。
(下線の箇所は昨年提出の事項からの変更部分です)
記
I 人身にかかわる交通事故が発生した場合の救命救急体制を万全にすること
1 医療活動のできる高規格の救急車(ドクターカー)および医療専用機(ドクターヘリ・ドクタージェット)を整備・配備して、人身にかかわる事故に対し、地域格差なく全ての人に迅速、適切な医療が施されるよう、一層の充実をはかること。
2 そのためにも、救急指定病院の拡大、指定外病院でも迅速な医療が施されるシステム、さらに遠隔地医療等の充実をはかること。
II 被害者や遺族に対しては、①尊厳が護られる権利②知る権利③司法手続きに参加する権利④被害から回復する権利の4つの権利が厳格に擁護されるよう、必要な制度や行政上の措置を行うこと。
3 交通犯罪被害者など犯罪被害者が、被害直後から生活支援や精神的ケアなど必要な支援が途切れなく受けられるよう、2018年に施行された「北海道犯罪被害者支援条例」に基づき自治体が行う支援制度の整備と機能充実を進めること。関係機関との連携協力を進め、道内全ての市町村で経済的支援を含めた必要な支援が受けられる体制をつくること。
4 科学的捜査と原因究明のために、検視や検案の後には、薬毒物検査およびCTやMRIなど死亡時画像診断(Ai)と総称される画像検査へと進み、専門医が的確に死因を診断し、最終段階である解剖の必要性を判断する仕組みをつくること。解剖はとくに遺体侵襲度が高く遺族にとって辛い死因究明法であることを踏まえて、解剖段階に進むのはCTによって死因を確定出来ない場合に限るなど、遺族の心情に十分配慮すること。遺族への説明や相談も早期に行う体制をつくること。死因究明を上記の段階ごとに各専門家が行う機関を一元化して設置すること。
上記のためにも、R2年4月施行の「死因究明等推進基本法」に基づく諸施策を充実させること。
5 交通事故による高次脳機能障害及び脳脊髄液減少症を、被害者保護の観点から、重大な後遺症として積極的に認定する制度改善を進めること。これらを含む後遺障害者の治療と生活保障を万全にすること。高次脳機能障害及び重度脊髄損傷の介護料支給対象を診断書による判断として拡大すること。遷延性意識障害者を介護する療護センターの充実をはかること。高次脳機能障害者の早期脳リハビリ施設の充実、及び後遺障害者が受傷から社会復帰まで一つの施設で一貫した支援が受けられる体制を整備すること。
III 交通死傷被害ゼロをめざし、命と安全が最優先される社会を実現すること。
6 危険で悪質極まりない飲酒や薬物使用での死傷事件を根絶するために、事故の際の飲酒検査をより厳正に行い、血液検査も徹底すること。飲酒の違反者にはアルコール依存症検査を義務付けることや、「インターロック」(アルコールを検知すると発進できない装置)装着を義務化するなど、再犯防止を徹底すること。飲酒運転をしないはもちろん、させない、許さないを、道民一人ひとりと行政・関係機関が一体となって取り組むことのできる実効ある総合的施策を推進すること。そのために、5年前に制定された北海道飲酒運転根絶条例の推進および必要な見直しを行うこと。
7 車道至上主義を改め、歩行者や自転車通行者、とりわけ子どもや高齢者が安全・快適に通行できる道路環境など、二重三重の安全対策を講じて被害ゼロを実現すること。自転車道・自転車レーンの整備を急ぐこと。幹線道路での歩車分離、通学路や住宅地、商店街など生活道路においては、クルマ通行に優先権を与えず、規制速度を30キロ以下とする「ゾーン30」など交通静穏化と歩行者優先を徹底すること。交差点での歩行者、自転車事故を防ぐために、歩車分離信号への切り替えを、スクールゾーン内の信号はもとより、速やかに全面的に進めること。ロードキルが原因の交通事故被害を根絶するために、高速道路における野生生物の侵入防止対策を万全にし、一般道路においては速度抑制を徹底すること。
8 交通死傷被害が深刻な事態となる根本要因は、クルマ依存と、安全よりも高速走行を優先するスピード社会である。速度違反の取締りを一層強化し、検討されている一部高速道の最高規制速度120キロへの引上げ方針には反対を表明し、北海道においても導入しないこと。
9 「自動運転車」のような、一部の、「不確かな」クルマに幻想を与えるのではなく、クルマを決して危険走行させることがないように、ペダル踏み間違い時の加速抑制装置や衝突予防装置、非常停止装置などの装着義務化、道路ごとの制限速度に応じて自動で速度制御を行う技術(Intelligent Speed Adaptation)の実用化など、全てのクルマを対象にした安全運転支援施策を急ぐこと。夜間の歩行者・自転車事故を防ぐために、自動ハイビームの義務化を急ぐこと、夜間の速度規制を導入すること。
10 死傷被害に直結する速度違反など危険運転を防止するために、そして積雪期における交通事故捜査の難しさを補うためにも、ドライブレコーダー(事故やそれに近い事態が起きた際、急ブレーキなどに反応し事故前後の映像等が記録され、分析によって速度や衝撃の大きさなど詳細が再現できる)の全車装着義務に向け、道独自に補助金を措置するなど具体策を講じること。
11 公的財政支出による公共交通機関網の整備拡大を図り、クルマ(とりわけ自家用車)に依存しない安全で快適な生活を実現すること。
以上
参考記事