加藤久道著「交通事故は 本当に減っているのか? “20年間で 半減した”成果の真相」(花伝社)の刊行を受けて

代表 前田敏章

koutsuujiko_hetteirunoka01 昨年12月、標題の書籍が著者から事務所に届けられました。
 著者の加藤久道氏は、元日動火災海上と日本損害保険協会の勤務経験を持ち、現在は評論活動をなされています。
 同封されたお手紙には、「交通事故発生件数は20年前に比べて約半分以下になったとされ」「(国民は)より安全になったと考え、日々の危機意識が薄らぎ自分は大丈夫と交通安全の意識が低下していないでしょうか」「国民に正しい情報を提供し、正しい認識に基づく適切な行動がとれることを願って本書を起稿いたしました」との言葉が添えられていました。

近年の負傷者数「激減」は「隠れ人身事故」の増加か

 加藤氏は、警察庁統計の「負傷者数」と自賠責保険支払件数の「傷害件数」(注)との差異(乖離)が、2007年以降顕著となり、2018年には0.48(約半分)にもなっているのは、「本来、人身事故として取り扱われるべき事故が、物件事故として取り扱われる、いわゆる『隠れ人身事故』の増加が原因」と指摘しています。
 加藤氏の指摘を踏まえて、警察庁と損保料率機構の数値をグラフにしてみました。一見して分かるように、死者数(①と②)は整合していますが、負傷者数(③と④)は、2007年を境に乖離が顕著です。

警察庁と損保料率機構の数値のグラフ

注:「自賠責保険支払件数の傷害件数」とは
 2019年版「自動車保険の概況」(損害保険料率算出機構p23、ネット検索可、※グラフの数値はp90・91)には次の説明があります。
「人身事故だけでなく物件事故として警察に届出がなされたものなどを含め、保険金を支払った件数を集計」
「事故当時、ケガの自覚賞状がなかった場合や、ケガが軽微であった場合には、人身事故として警察に届出を行わないまま、その後、ケガの治療を行うことがあります。このようなケースでも、医師による診断書の提出により、事故とケガの発生に因果関係が確認された場合には、自賠責保険の保険金が支払われます。」

 さらに「乖離数」(④-③)もグラフ化してみましたが、2007年以降の増え方の異常さが際立ちます。

負傷者数の解離数

負傷者数の解離数

 加藤氏はこの因を、第7次交通安全基本計画までの目標値は死者数だけであったのが、第8次計画(2006~10年度)以降、負傷者数の目標値が設定されたことなどにより、行政の「成果主義」の中で、人身事故であるのに物損事故とカウントする「扱い」が次第に増加したのではないか、と分析しています。

青野弁護士も2019年に指摘

 なお、この問題、私たちは2019年5月の交流学習会で、青野弁護士から以下教示されていました。
「警察庁の統計では、負傷者数が激減していることになるが、損保料率機構が公表している傷害件数をみると、こうした事実は見受けられない。警察において、明らかな重傷事案にもかかわらず、人身事故として扱っていないケースもある。近時の激減傾向は、一方当事者が怪我をしていても人身事故として扱わない件数が増えていることを示していると思われる」

刊行を受けて、「計画」への追加意見を提出

 会では、昨年12月の第11次交通安全基本計画中間案に対する公聴会(前ページ)後に知った加藤氏の書籍刊行を受け、急ぎ以下の追加意見を提出したところです。今後も重要課題と位置づけます。

 中間案の「令和元(2019)年中の死傷者数は464,990人」との記述は、被害の甚大さと深刻さを覆い隠します。現状分析を正確に行い有効な対策を練るという、本「計画」の根幹に関わりますので、負傷者数は、損害保険料率機構の「傷害件数」を用いるべきと考えます。同機構の2019年度「統計集」による同年の傷害件数は1,006,277件であり、警察庁統計の負傷者数461,775人との乖離率は0.46にも達するからです。
 本意見を加え、先の公聴会での当会意見の反映を切に願います。

(12月20日提出のパブリックコメントより)