コラム
道路交通法と自動車運転処罰法の改正について
~あおり運転に関する犯罪規定~
副代表・弁護士 内藤 裕次
目次
1はじめに
あおり運転が社会問題として認識されてきたことを背景として、「道路交通法」及び「自動車の運転、により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が改正され、それぞれ、令和2年6月30日と7月2日から施行されています。このうち,道路交通法の改正部分は、あおり運転に関するものだけでなく「一定の違反歴のある高齢者に対する更新時技能検査の義務づけ」、「自転車の妨害行為と安全講習」など、他にもいくつかありますが、本稿ではあおり運転に関する部分について説明していきます。
2 妨害運転罪(道路交通法)
(1)妨害運転の10類型
法律上は「あおり運転」という言葉は使われておらず、「妨害運転」という言葉が使われています。そして、道路交通法は、妨害運転を10の類型に分類し、これら妨害運転をした場合、妨害運転罪に問われる可能性があります。10個の類型をできるだけわかりやすく表現すると、次の通りになります。(括弧内は、例示です)
- イ 通行区分違反(対向車線の逆走等)
- ロ 急ブレーキ禁止違反(急ブレーキをかける)
- ハ 車間距離不保持(車間距離を縮める)
- ニ 進路変更禁止違反(急な進路変更、割り込み)
- ホ 追越し違反(乱暴な追い越し、左からの危険な追い越し)
- ヘ 減光等義務違反(ハイビームでの威嚇を継続)
- ト 警音器使用制限違反(不必要なクラクション)
- チ 安全運転義務違反(幅寄せや蛇行運転など)
- リ 最低速度違反(高速道路で最低速度以下で走行する)
- ヌ 高速自動車国道等駐停車違反(高速道路での駐停車)
(2)妨害運転罪
以上の運転をした場合、必ず妨害運転罪に問われるわけでは無く、罪となるには一定の要件が必要になります。すなわち、①これらの行為が「他の車両等の通行を妨害する目的」で行われる必要があり、さらに、②当該他の車両等に「道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法」によることが必要になります。
これらの要件を満たした場合は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金となります。
また、②について②よりも危険な結果を生じさせた場合は,刑が重くなります。すなわち「高速自動,車国道等において他の自動車を停止させた 場合」、その他道路における著しい交通の危険を生じさせた」場合には、5年以下の懲役または100万円以下の罰金となります。
(3)免許取消となる
これらの妨害運転罪に該当した場合,直ちに免許取消処分となります。
3 危険運転致死傷罪の追加類型(自動車運転死傷処罰法)
自動車運転死傷処罰法には、危険運転致死傷罪等が規定され、これに該当する危険運転行為が複数列挙されていますが、これに2類型が追加されました以下に該当し、これにより人を死傷させた場合は危険運転致死傷罪となります。
刑については、負傷の場合は15年以下の懲役、死亡の場合は1年以上の懲役になります。
(1)妨害目的接近等危険運転(※1)
一つ目は、相手の車の前方で停止したり、相手の車に著しく接近する行為です。ただし、相手の車は、「重大な交通の危険が生じることとなる速度で、走行中のものに限る」という限定があるので、被害車両が低速で走行している場合は該当しません。ただし、どの程度が「重大な交通の危険が生じることとなる速度」なのかは、裁判例の集積を待たなければ明らかにはならないでしょう。また、「車の通行を妨害する目的」も必要になります。
(2)高速道路等における妨害目的危険運転(※2)
二つ目は、高速道路または自動車専用道路で走行中の自動車の前方で停止したり、走行中の自動車に著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、「走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為」です。
こちらは、(1)と異なり、高速道路・自動車専用、道路上の行為に限定されていますが、高速道路等では停止・徐行自体が危険な行動となることから、停止・徐行を仕向けるような妨害行為も、危険運転の対象となっています。
この場合についても、「車の通行を妨害する目的」が必要になります。
4 課題
危険運転致死傷罪のところでも書きましたが、裁判所の判断を待たなければ明らかにならない成立要件があります。特に、「他の車両等の通行を妨害する、目的 はどのような事実に基づき判断されるのか、「道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法」とはどのような方法なのかが争われる事案が多くなると考えます。
〈注〉
※1 ※2 筆者独自につけた略称です。
〈参考〉関係条文
※「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」の2条に、五、六項(下線部)が追加
(危険運転致死傷)
第2条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する
(一~三項は略)
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
五 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
六 高速自動車国道において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為
(七、八項は略。改正前の五、六項にあたります)
なお、自動車運転処罰法等の改正経緯については、会報44、54、60の各号に内藤、青野両弁護士の解説がありますので参照して下さい (編集者)
(会報第62号 より)