2024/11/16「世界道路交通被害者の日・北海道フォーラム2024~交通死傷ゼロへの提言~」開催報告
11月第3日曜日(11月17日)は、国連が2005年に定めたWorld Day of Remembrance for Road Traffic Victims(世界道路交通被害者の日 ワールドデイ)でした。
北海道交通事故被害者の会は、今年もこの取り組みに連帯し、11月16日(土)、「世界道路交通被害者の日・北海道フォーラム2024」を主催しました。
会場の札幌市中央区「かでる2・7」710会議室には、市民と関係者、被害者の会会員など50人を超える参加者が集い、交通死傷ゼロへの誓いを新たにしました。
東京では今年もテレビ塔を背に「World Dayキャンドル集会」
なお、「世界道路交通被害者の日(World Day)・日本フォーラム」(小栗幸夫代表)は、今年も11月17日(日)18~19時、港区芝公園で、テレビ塔を背に東京集会(キャンドル集会)を行っています。(写真)
以下は、本フォーラムの概要報告です。詳細については、2025年1月発行予定の当会会報71号にて報告予定です。
目次
World Day of Remembrance for Road Traffic Victims(世界道路交通被害者の日)
「交通死傷ゼロへの提言・北海道フォーラム」に50人を超える市民が集う
日時:2024年11月16日(土)13:30~16:20
会場:札幌市中央区「かでる2・7」710会議室
主催:北海道交通事故被害者の会
後援:北海道、北海道警察、札幌市
協力:世界道路交通被害者の日・日本フォーラム、クルマ社会を問い直す会
第1部「ゼロへの願い」~こんな悲しみ苦しみは 私たちで終わりにして下さい ~ 被害者の訴え
「突然 “被害者遺族” となって〜9歳で生涯を終えた息子と共に歩む道〜
小学4年の息子は 通学途中 青信号の横断歩道で(ずさんな自己管理で不適切な服薬を行い意識障害となった)無謀運転の加害者により命を奪われました。・・・
札幌市 西田 圭
第1部の「被害者の訴え」では、札幌市の西田圭さんが、今年5月16日、小学4年の息子さん(倖さん)を、ずさんな服薬管理で意識障害に陥った加害者に奪われた悲しみの中、登校途中、青信号の横断歩道で轢かれた倖さんの無念と再発防止を涙ながらに訴えられました。
加害者は、糖尿病治療のインスリン服薬に必要な食事摂取を怠ったもので、西田さんは、倖さんからの「パパ、どうして僕は死んじゃったの」という「声なき声」を聴き、同じ被害に遭う人を二度と出さないために発信を続けたいと語り、再発防止のための具体的課題~社会に望むこと~として、次の3点を強調されました。
- 病気の症状や治療薬の影響で、不適切な運転が起きない社会にする
- 違反・事故発生時の薬物(違法だけではなく、治療薬も含めた)服用のチェック強化
- 免許更新時の運転禁止・注意薬の服用有無の確認、医師所見提出の義務化
西田さんの訴えは参加者の胸に強く響き、参加者からは「同じ子どもを持つ親として、西田様のお話は胸が締め付けられる思いでした。辛い中でも倖君と共に交通事故ゼロへの想いから立ち上がって下さった講演はしっかりと受け止めさせてもらいました。これからも交通事故ゼロに向けて一緒に頑張っていきたいと思っています」との感想が多く寄せられています。
西田さんの訴えの詳細記録
第2部「ゼロへの提言」
シンポジウム テーマ:「生活道路30キロ規制」の意義と課題
~歩行者・自転車の被害ゼロへの確かな一歩を~
第2部は、シンポジウム。警察庁がこの5月に英断し、政府決定もされた「生活道路30キロ規制」(2026年9月~)の意義と課題をテーマについて、関係機関と主催者からの提言を受けました。
道警交通部の提言:「交通安全について考える」
最初に道警察本部交通部の高野敦管理官が「交通安全について考える」と題し、閣議決定された「生活道路30キロ規制」のポイントと意義、この施策を人命保護に直結させるために、現在取り組み中の諸施策~スクールゾーンから始まる、ゾーン30(プラス)、可搬式ハンプなど物理的デバイスによる速度抑制策、「ハンドサインでストップ運動」など~との連動など、具体的に提起されました。
道の提言:「歩行者、自転車の安全と生活道路の30キロ規制について」
続いて、道くらし安全局道民生活課の二瓶友和課長が、「歩行者、自転車の安全と生活道路の30キロ規制について」と題し提言。
道内での生活道路における歩行者・自転車事故被害の実態などをグラフで示し、地域の「コミュニティ道路」としてあるべき生活道路のより一層の安全確保のため、道警とともに、スクールゾーンやゾーン30の取り組みを続けていること、速度と停止距離の関係や高速度の場合の致死率の高さなどをからも、30キロ規制の意義の周知に努めることなど、被害根絶への施策が提起されました。
道警と道からの提言に対する参加者の感想
道警と道からの提言に、参加者からも「道警と北海道庁の説明で、取組の理解が出来ました。今後の具体的推進に期待します」「今日のお話は、自分止まりするのでなく、家族や職場の人にも伝え、交通事故・犯罪を無くしていくために、考えていきたいと思いました」(参加者アンケートより)などの感想が寄せられています。
主催者の提言:「生活道路の30キロ規制を交通死傷“ゼロ”への確かな一歩に」
主催者からは、真島勝彦副代表が「生活道路の30キロ規制を 交通死傷“ゼロ”への確かな一歩に」と題して提言。
生活道路の30キロ規制は、当会と本フォーラムが長年求めてきた施策であること。西欧では、道路の優先権をクルマに与えないという人命優先の政策が進むが、日本はクルマ優先の考え方が残る。生活道路の30キロ規制を契機に、西欧に学び、かけがえのない命を守るために、歩行者優先の安全低速走行、通学路を通り抜けさせない具体的な施策を講じることなど改めて提言しました。
参加者からは、「(北海道の会が)25年前からこうした活動を続けておられることに心からの敬意を表したく思います。ご家族、ご自身ともに大変辛い日々を過ごしながら声をあげ続けることが、どれだけ大変なことか・・・。察するに余りあるものがあります。しかし、そのおかげで生活道路の30キロ規制が実現したのだと思えました。本日は大変勉強になりました。まだまだ課題は山積しており、一朝一夕には社会は変わらないように思いますが、自分がハンドルを握る時は必ず今日のことを想い出したいと思います」(参加者アンケートより)などの声が届いています。
〈配付資料より〉
第3部 ゼロへの誓い
交通死傷ゼロへの提言
2024年11月16日
世界道路交通被害者の日・北海道フォーラム
近代産業社会がモータリゼーションとともに進行する中、この利便性を享受する影で、「豊かさ」の代名詞であるクルマがもたらす死傷被害は依然深刻であり、命の尊厳とは何かという根源的問いが突きつけられています。
人間が作り出した本来「道具」であるべきクルマが、結果として「凶器」のように使われている異常性は即刻改められなければなりません。
第1 交通死傷被害「ゼロ」のための施策推進を
憲法が第13条で定めているように、人命の尊重は第一義の課題です。「第11次交通安全基本計画」の基本理念には「究極的には交通事故のない社会を目指す」と記されていますが、「究極的には」でなく、中期目標としてゼロの実現を明記し、施策の基本に据えるべきです。減らせば良いではなく、根絶するにはどうするかという観点から、刑法や道路交通法など法制度、道路のつくり、対歩行者を重視した車両の安全性確立、運転免許制度、交通教育など施策の抜本的改善を求めます。
第2 クルマの抜本的速度抑制と規制を基本とすること
これまでの長い苦難の歴史から私たちが学んだ教訓は、利便性、効率性、そしてスピードという価値を優先して追求してきた「高速文明」への幻想が、人々の理性を麻痺させ、真の豊かさとは相容れない危険な社会を形成してきたということです。安全と速度の逆相関関係は明白です。施策の基本に速度の抜本的抑制を据えるべきです。
不確かな「自動運転車」に幻想を持つのではなく、今あるクルマの速度規制が急務です。クルマ自体に、規制速度を超えられない制御装置やドライブレコーダー装着を義務化し、速度と安全操作の二重三重の管理を徹底すべきです。
第3 歩行者保護と居住地の交通静穏化を徹底すること
子どもや高齢者の安全を守りきることは社会の責務です。道路は住民らの交流機能を併せ持つ生活空間であり、決してクルマだけのものではありません。子どもや高齢者が歩き自転車が通行する中を、ハードなクルマが危険速度で疾駆し、横断歩道での歩行者優先(道交法38条)が守られていないなどの現状を今すぐ改め、横断歩道のある全ての交差点を歩車分離信号に変え、生活道路における通行の優先権を完全に歩行者に与えるために、速度を少なくても30キロ以下に一律規制(「ゾーン30」の発展)し、交通静穏化を実現しなくてはなりません。
同時に、財源措置を伴う公共交通機関の整備を進め、自転車の更なる活用と安全な走行帯確保を緊急課題と位置づけるなら、道路の交流機能は回復し、コンパクトな街並みは活気を取り戻すでしょう。それは、住民の生活の質をも豊かにし、全ての市民の基本的人権の保障につながるのです。
会場には今年も「いのちのパネル」が展示されました。
私たちは、25年前の発足当初より、支援に関わる機関や団体そして道民の方が被害者を真ん中に置いて集い連携を深める市民参加のフォーラムを(コロナ禍の3年間を除き)継続して開催しておりますが、今フォーラムの成功を糧に、被害者の尊厳と権利回復、そして犠牲を無にしないための交通死傷ゼロを求める諸活動をさらに前へ進めたいと考えています。
メディア報道
(西田さんが訴えた)不適切服薬などによる交通死傷被害を根絶するための課題をメディアが取り上げてくれました。
フォーラムでの西田さんの訴えは、多くのメディアがこれを取り上げ、北海道新聞は、後掲のように11月23日付紙面で訴えの要旨を報じ、朝日新聞は11月25日付の全国紙面で「不適切服薬 絶えぬ事故」「インスリン注射後、食事せず運転 9歳はね死亡」との記事を掲載し被害ゼロのための体調管理の重要性を報じました。
(朝日新聞の記事は朝日新聞デジタル「薬の用法守らず運転、9歳犠牲に 市販薬でも意識障害の危険性」で読むことができます。
当会の要望事項でもしっかり位置づけます
西田さんが具体的に提起した、道交法66条(「何人も、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない」)の徹底のため、医療機関との連携も強め、免許と運転の管理を万全にしなければなりません。
私たちはこれまでも、関係省庁に毎年提出している交通犯罪・事故根絶のための要望書(5-2項)で、「病気や高齢による身体機能の低下が安全運転に不可欠な認知・判断・操作に影響を及ぼすことが決して無いよう・・・健康検査の厳格化を進めること」など免許付与条件の厳格化など諸施策を求めています(下記当会活動報告記事の14ページ)が、今フォーラムでの西田さんご家族の訴えを受けて、さらに強く求めていきます。