2021/9/1 国の各省庁あて、2021年版「交通犯罪被害者の尊厳と権利、交通犯罪・事故根絶のための要望書」提出

 国の関係省庁(内閣府、警察庁、法務省、国土交通省、厚生労働省)大臣宛要望書を提出しました。

2021年版「交通犯罪被害者の尊厳と権利、交通犯罪 ・事故根絶のための要望書」(PDF)

 大項目6、小項目21という構成は変わりませんが、歩行者保護に直結する速度規制と交通静穏化についてなど、小幅に見直した項目もあります。

2021年版「交通犯罪被害者の尊厳と権利、交通犯罪 ・事故根絶のための要望書」

2021年9月1日

関係各省大臣殿
(内閣官房長官、警察庁長官、法務大臣、国土交通大臣、厚生労働大臣)

交通犯罪被害者の尊厳と権利、交通犯罪・事故根絶のための要望書

北海道交通事故被害者の会

 憲法は「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」(第13条)と「生命権」を銘記しています。しかし、交通犯罪・事故の犠牲者は、今も死者が年間3,415人(2020年中の30日以内死者、警察庁交通局統計)に達し、負傷者も年間36万8900人(2020年警察庁交通局統計。なお損害保険料率算出機構の示す2019年傷害件数は108万2458件)と、極めて深刻な事態が続きます。北海道においても、2011〜2020年の10年間で、1,663人の死者(24時間内)という甚大な犠牲です。
 他の事件に比べ、道路上での車両による事件や事故については、未だに犯罪という認識は薄く「事故だから仕方ない」「運が悪かった」と軽視されて、被害ゼロへの抜本対策が不十分です。結果として多数の被害が続き、子どもや高齢者、歩行者、 自転車の犠牲も後を絶たないという、人命軽視の麻痺した「クルマ優先社会」が続いています。
 交通犯罪によってかけがえのない家族を失う、あるいは後遺障害などにより人生を変えられるなど、深く傷つけられた私たち被害者のせめてもの願いは、尊い犠牲が生かされ、真に命と人権が 護られる社会がつくられることです。
 交通犯罪被害者の尊厳と権利を護り、現代の最大の人権侵害ともいうべき交通死傷被害を根絶するため、以下の事項について、抜本的・総合的な施策推進を要望致します。

(下線の箇所は昨年提出の事項からの変更部分です)

1 人身にかかわる交通事故が発生した場合の救命救急体制を万全にすること

1-1 医療活動のできる高規格の救急車(ドクターカー)および医療専用機(ドクターヘリ・ドクタージェット)を整備・配備して、人身にかかわる事故に対し、地域格差なく全ての人に迅速、適切な医療が施されるよう、一層の充実をはかること。

1-2 そのためにも、救急指定病院の拡大、指定外病院でも迅速な医療が施されるシステム、さらに遠隔地医療等の充実をはかること。

2 「死人に口なし」のような不公正を生まないよう、公正な裁きの基礎となる、客観証拠に基づく原因究明・再発防止のための科学的捜査を徹底すること

2-1 科学的捜査と原因究明のために、検視や検案の後には、薬毒物検査およびCTやMRIなど死亡時画像診断(Ai)と総称される画像検査へと進み、専門医が的確に死因を診断し、最終段階である解剖の必要性を判断する仕組みをつくること。解剖はとくに遺体侵襲度が高く遺族にとって辛い死因究明法であることを踏まえて、解剖段階に進むのはCTによって死因を確定出来ない場合に限るなど、遺族の心情に十分配慮すること。家族 への説明や相談も早期に行う体制をつくること。死因究明を上記の段階ごとに各専門家が行う機関を一元化して設置すること。上記のためにも、 2020年4月施行の「死因究明等推進基本法」に基づく諸施策を充実させること。

2-2 科学的捜査と原因究明のために、航空機のフライトレコーダーに相当するドライブレコーダー(事故やそれに近い事態が起きた際、急ブレーキなどに反応し事故前後の映像等が記録され、分析によって速度や衝撃の大きさなど詳細が再現できる)の全車装着義務を法制化すること。 また、未装着車については、必要に応じイベントデータレコーダ(EDR)の押収、解析による公正捜査を行うこと。

2-3 公訴時効制度は、逃げ得を許し、被害者の尊厳を損なう不正義極まりない制度である。死亡ひき逃げ事件を含め生命・身体に対する犯罪の 公訴時効は即刻廃止すること。

3 被害者等に対しては、①尊厳が護られる権利 ②知る権利 ③司法手続きに参加する権利 ④被害から回復する権利の4つの権利が厳格に擁護されるよう、必要な制度や行政上の措置を行うこと。

3-1 被害者の知る権利と、捜査の公正さを保障するため、実況見分調書など交通事故調書や鑑定報告書を、当事者の求めに応じ、送検以前の捜査過程の早期(実況見分調書は事件後1~2週間以内)に開示すること。事故原因、加害者の処遇、刑事裁判の予定など、被害者の知る権利を保障する通知制度を徹底すること。

3-2 犯罪被害者等基本法前文および第18条の趣旨から、刑事裁判における被害者参加制度の充実をはかること。被害者等および被害者参加弁護士が公判前整理手続に参加する権利を、法律で定めること。さらにすすめて、捜査,公訴提起、刑事裁判手続に被害者が直接関与できる制度を整備するとともに、かかる権利の実現に資する制度、例えば、捜査情報の提供を受け捜査に参加する権利の確立や検察審査会の機能と権限の強化等をはかること。損害賠償命令制度の適用対象を、過失により人を死傷させた犯罪にまで拡大すること。

3-3 被害者に対する損害賠償が適正に措置されるように、保険賠償制度は国が管理する自賠責保険に一本化し、対人無制限など充実させること。自賠責保険の支払限度額や給付水準を抜本的に改善するとともに、公正な認定がされるように実態把握に努め機構の改善をはかること。交通事犯被害者への適正な治療と補償、後遺症認定がなされるように、初期診断にあたっては、全身の検査が重要であることを医療機関に指導徹底すること。外傷がなくても頭部打撲や脊髄液減少症などの発症の可能性がある全ての場合にMRIなどの画像診断記録を義務づけるなど制度整備を図ること。経済的支援と合わせ、PTSDに対する支援制度など精神的な支援を含めた被害回復の補償制度整備を進めること。

3-4 脳外傷による高次脳機能障害及び脳脊髄液減少症を、被害者保護の観点から、重大な後遺症として積極的に認定する制度改善を進めること。これらを含む後遺障害者の治療と生活保障を万全にすること。高次脳機能障害及び重度脊髄損傷の介護料支給対象を診断書による判断として拡大すること。遷延性意識障害者を介護する療護センターの充実をはかること。高次脳機能障害者の早期脳リハビリ施設の充実、及び後遺障害者が受傷から社会復帰まで一つの施設で一貫した支援が受けられる体制を整備すること。

3-5 交通犯罪・事故の被害に遭った胎児の人権を認め、加害者の刑事罰、損害賠償および保険制度において、胎児を人と扱うための法改正を行うこと。

3-6 交通犯罪被害者など犯罪被害者が、被害直後から恒常的に支援を受けられるよう公的機関の整備・充実をさらに進めること。

4 交通犯罪を抑止し、交通死傷被害ゼロを実現するために、交通犯罪に関する刑罰適正化を進めること。

4-1 自動車運転死傷行為処罰法は、自動車運転による死傷行為のなかでも悪質な類型を処罰するために立法、改正されてきたが、構成要件に解釈の余地が大きく、国民感情と運用との乖離が生じている事件もみられる。そこで、目的などの主観的要素の要件の緩和や、速度違反、飲酒、居眠り、脇見運転等の危険運転一般に適用可能な条項を設けるなどの改正をすること。また、過失運転致死傷罪(同法5条)については、死亡の場合の最高刑を引き上げ(12年など)、罰金刑は削除すること。

4-2 交通犯罪に対する起訴便宜主義を改め、公正に裁くこと。そのためにも、自動車運転死傷行為処罰法第5条の「傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる」という「刑の裁量的免除」規定は即刻廃止すること。

4-3 危険で悪質極まりない飲酒や薬物使用での死傷事件を根絶するために、事故の際の飲酒検査をより厳正に行い、血液検査も徹底すること。飲酒の違反者にはアルコール依存症検査を義務付けることや、「インターロック」(アルコールを検知すると発進できない装置)装着を義務化するなど、再犯防止を徹底すること。飲酒運転をさせない、許さないという国民意識の形成と具体的施策を一層推進すること。

5 交通犯罪を根絶し、交通死傷被害をゼロにするために、国民皆免許主義ではなく、安全運転のための専門的な技能をもった者に限るよう、免許付与条件を厳格にすること。

5-1 運転免許取得可能年齢の繰り上げ(バイクも18歳へ)や教習課程の抜本的見直し、「運転適性検査」(医学的など)の徹底と診断義務の拡大など、免許付与条件を厳格にすること。

5-2 免許者の違反行為はすべて重大な人身事故の要因となる。累犯と事故の未然防止のために安全確認違反など危険な道交法違反は全て免許取り消しとし、その他の違反にも欠格期間を長期にする、重い罰金を科すなど免許付与後の資格管理を適切に行うこと。免許再取得の制限を厳しくし、重大な違反を繰り返した場合や違反による死傷事件を起こした場合などは永久に免許取得資格を与えないこと。病気や高齢による身体機能の低下が、安全運転に不可欠な認知・判断・操作に影響を及ぼすことが決して無いよう、高齢者の免許更新期間を1年に短縮し、免許更新時の実技検査や認知機能を含む健康検査の厳格化も一層進めること。

6 交通死傷被害ゼロをめざし、命と安全が最優先される社会を実現すること。

6-1 安全の課題を交通の「円滑」と同列視せず、命の尊厳を貫くこと。交通安全対策基本法に基づく「交通安全基本計画」の目標を死者・重傷者ゼロとし、そのためのロードマップを示すこと。事故原因と原因にいたる要因を完全に絶つ施策を講じるために、運輸安全委員会の調査対象に、一般の自動車事故を加えて、車の安全性能の問題や速度性能とその制御、道路構造の問題など事故原因を徹底究明し、再発防止への根底施策を明らかにすること。

6-2 自動車事故被害が深刻な事態となる根本要因は、クルマ依存と、安全よりも経済効率や高速走行を優先するスピード社会である。社会が護るべき子どもや高齢者をはじめ、国民全てが安全・快適に通行できる万全の対策を講じて交通死傷被害ゼロを実現すること。
 「ゾーン30」を中心とする歩行者保護施策を強く推進するとともに、以下3点を基本に道路交通法の抜本見直しを行い、交通静穏化を早急に実現すること。

市街地など居住地域の道路の速度規制を全て30km/h以下とする
上記地域の歩道のない道路は20km/h以下とする
自動車専用道路以外の幹線道路で歩車分離など十分に安全性が見込める道路は上限50km/hとした低速規制とする

 交差点での歩行者・自転車等の被害を防ぐために、歩車分離信号への全面切り替えを速やかに進めること。車道を狭くして自転車レーンを確保するなど、自転車の安全対策を急ぐこと。夜間の歩行者・自転車事故を防ぐために、自動ハイビームの義務化を急ぎ、夜間の速度規制を強く推進すること。ロードキルが原因の交通事故被害を根絶するために、高速道路における野生生物の侵入防止対策を万全にし、一般道路においては低速度規制を徹底すること。

6-3 「無人の自動運転車」への根拠のない楽観論が拡がらないように配慮し、検討されているISA(Intelligent Speed Adaptation 自動速度制御装置)の実用化や、ペダル踏み間違い時の加速抑制装置、非常停止装置など、全てのクルマを対象にした安全運転支援施策を急ぐこと。

6-4 職業運転者の安全運転管理のためにも労働時間規制の強化を図ること。これに逆行する交通運輸産業の規制緩和政策は行わないこと。「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」を、安全運行を第一義に早急に改めること。労働力不足を理由とした運転免許の取得規制の緩和等は行わないこと。運輸業者の安全に対する社会的責任を明確にし、監査を徹底するとともに、悪質違反や重大人身事故を惹き起こした場合の罰則強化など行政指導を強化すること。

6-5 公的財政支出による公共交通機関網の整備拡大を図り、クルマ(とりわけ自家用車)に依存しない安全で快適な生活を実現すること。

以上