「ワールドデイ・フォーラム2019」の報告
世界道路交通被害者の日(ワールドデイ)北海道フォーラム2019」は、11月16日(土)、札幌市の「かでる2・7」を会場に、市民と関係者、被害者の会会員など80人が集い、交通死傷ゼロへの誓いを新たにしました。
資料集
二つの命(PDF)
旭川飲酒危険運転致死事件(PDF)
諸澤先生講義資料(PDF)
目次
「世界道路交通被害者の日(ワールドデイ)北海道フォーラム2019」 開催要項
日時・会場:11月16日(土)、13:30~16:30 札幌市「かでる2・7」
主催:北海道交通事故被害者の会
後援:北海道、北海道警察、札幌市
協力:世界道路交通被害者の日・日本フォーラム、クルマ社会を問い直す会
次第
主催者挨拶 北海道交通事故被害者の会 代表 前田敏章
第1部 ゼロへの願い:被害者の訴え~こんな悲しみ苦しみは私たちで終わりにして下さい~
◆「二つの命、この25年伝え続けていること」 福澤きよ子さん(北斗市)
◆「中島朱希さん被害事件、ご遺族のたたかいと最高裁決定の意義」 青野渉弁護士
資料手記「飲酒暴走の危険運転に命を奪われた妻の無念を忘れない」 中島さん(旭川市)
第2部 ゼロへの提言
特別講演
「交通犯罪における被害者の尊厳を考える~基本法制定から15年の課題~」
講師 諸澤英道氏
プロフィール
常磐大学元学長世界被害者学会理事「被害者が創る条例研究会」メンバー
専門は、被害者学・刑事政策学・犯罪学。
著書に「被害者学」・「被害者のための正義」(成文堂)、「被害者支援を創る」(岩波ブックレット)など。
第3部 ゼロへの誓い
・北海道環境生活部 くらし安全局 道民生活課 課長 屋代芳彦氏
・北海道警察本部 交通部
閉会挨拶 いのちのパネル実行委員長 小野茂
開催報告
司会を務めたのは、ご自身が生まれる前に兄を奪われた佐藤茜莉さん。
最初に今年1月以来道内で交通死された131人をはじめ、これまでの世界中の犠牲者に黙禱を捧げました。
次に、代表の前田から、本ワールドディ・北海道フォーラムが、東京・芝公園での「日本フォーラム」主催のキャンドル集会や秋田県警が継続している「黄色の風車」運動など全国のとりくみと連帯して行われていること、去る11月5日、今回も提案している「交通死傷ゼロへの提言」を基に、11次交通安全基本計画(2021~)に向けての意見提言を行ったことなど、報告も兼ねた主催者挨拶がありました。
第1部「ゼロへの願い~こんな悲しみ苦しみは私たちで終わりにしてください~」では、北斗市の会員福澤きよ子さん(写真)が、「二つの命、この25年伝え続けていること」と題し被害ゼロを訴えました。当時小学6年生の双子の姉妹のお子様を通学途中に歩道に乗り上げた暴走トラックによって奪われた悲しみと苦しみを切々と語る言葉に、参加者はすすり泣きながら、クルマが日常的に凶器となっている現状変えなければ、という決意を共にしました。
続いて青野弁護士からは、旭川市の中島朱希さん被害事件について、ご家族の手記「飲酒暴走の危険運転に命を奪われた妻の無念を忘れない」を紹介しながら、訴因変更を求めた取り組みと、このほど確定した最高裁決定(2019年8月29日)の意義が報告されました。
第2部「ゼロへの提言」は、被害者学の諸澤英道氏(写真)より「交通犯罪における被害者の尊厳を考える~基本法制定からの高齢者を被害者にも加害者にもさせないために~」をテーマに特別講演。世界的視野から日本における被害者問題の現状と課題が教示され、わが国で遅れている被害者理解を深めることが交通犯罪防止にもつながることなど強調されました。
講演後は、道内外から参加の支援・研究者の方を含めた会場発言による交流討議が行われ、「札幌市に犯罪被害者条例を作る市民会議」の座長を務める山田廣弁護士からは、「被害者の救済は、法律によって国と地方の両方で取り組まなければならない。制令指定都市札幌での特化条例制定は急務」との貴重なご発言。また、留萌管内遠別町の交通安全に取り組む住民課からは、本フォーラムに交通指導員の方など11人で参加されているというご発言があり、参加者と主催者を大きく励ましてくれました。
第2部のまとめは、コーディネーターを務めた内藤副代表(弁護士)が、諸澤先生の講演から学んだ感想と前置きして「『刑事司法は被害者のためにもある』を具現化するため、被害者参加制度など公正な刑事司法を目指すべきこと、メディアの理解をさらに得ていく必要があること、被害者に必要な支えは、どこに住んでいても受けられるべきである」とまとめられました。
第3部「ゼロへの誓い」では、道(道民生活課)と道警(交通部)から、討議を踏まえた力強いご挨拶を受け、最後に、「いのちのパネル」実行委員長の小野さんから、講師をはじめ参加者の皆様へお礼の閉会挨拶があり、約3時間のフォーラムを閉じました。
出席者からは、
- ★福澤さんのお話を聞くことができて良かったです。交通犯罪の悲惨さを周りにも伝えて行こうと思います。ありがとうございました。
- ★直接被害者の声が聴けて良かった。車を運転する者として、改めて、一つまちがえば車が凶器に変わってしまうことを実感した。
- ★諸澤先生の言われた事、何十年も前に被害に遭った当事者の私がず~と思い続けていた事で、やっと被害者の立場に目を向けてくれるようになってきたのかと、少しの光が差し込みました。被害者自身は、当初は何もできないのです。
- ★交通犯罪被害に対する国民の意識を変えていくことが被害根絶につながる。
- ★被害者を護ることの大切さが良くわかりました。犯罪者(特に交通犯罪)に対する量刑の重さという、大切な問題解決が早まればよいと思いました。
- ★自分も認識を改め、社会に働きかける力になりたい。
など、今フォーラムの意義を評価する感想が多数寄せられています。
私たちは、20年前の発足当初より、支援に関わる機関や団体そして道民の方が、被害者を真ん中に置いて集い連携を深める市民参加のフォーラムを継続して開催しているところですが、今フォーラムの成功を糧に、被害者の尊厳と権利の確立、そして犠牲を無にしないための交通死傷ゼロを求める諸活動をさらに前へ進めたいと決意をしています。
(前田記)
世界道路交通被害者の日・いのちのパネル展
2019年11月14日札幌駅地下歩行空間(札幌市区政課の協力で開催)
新聞報道
北海道新聞2019年11月19日夕刊
ゼロへの提言
交通死傷ゼロへの提言
2019年11月16日
世界道路交通被害者の日・北海道フォーラム
近代産業社会がモータリゼーションとともに進行する中で、人々の行動範囲は飛躍的に拡がり、欲しいものがより早く手に入る時代となりました。しかし、この利便性を享受する影で、「豊かさ」の代名詞であるクルマがもたらす死傷被害は深刻で、命の重さと真の豊かさとは何かという問いが突きつけられています。
わが国において2017年に生命・身体に被害を受けた被害者数は61万2034人ですが、このうち何と95.5%(58万4544人)は道路交通の死傷(死亡者数は5,004人※厚生統計)です。
この「日常化された大虐殺」ともいうべき深刻な事態に、被害者・遺族は「こんな悲しみ苦しみは、私たちで終わりにして欲しい」と必死の訴えを続けています。人間が作り出した本来「道具」であるべきクルマが、結果として「凶器」のように使われている異常性は即刻改められなければなりません。このような背景から、国連は11月の第3日曜日を「World Day of Remembrance for Road Traffic Victims(世界道路交通被害者の日)」と定め警鐘を鳴らしています。
「交通死傷ゼロへの提言」をテーマに本年も集った私たちは、未だ続く「事故という名の殺傷」を根絶し、「日常化された大虐殺」という言葉を過去のものとするために、以下の諸点を中心に、わが国の交通安全施策の根本的転換を求めます。
第1交通死傷被害ゼロを明記した目標計画とすること
憲法が第13条で定めているように、人命の尊重は第一義の課題です。平成28年3月策定の「第10次交通安全基本計画」の基本理念には「究極的には交通事故のない社会を目指すべきである」とされていますが、「究極的には」でなく、中期目標としてゼロの実現を明記し、政策の基本に据えるべきです。
減らせば良いではなく、根絶するにはどうするかという観点から、刑法や道路交通法など法制度、道路のつくり、対歩行者を重視した車両の安全性確立、運転免許制度、交通教育など関係施策の抜本的改善を求めます。自動車運転処罰法も、人の死傷という結果の重大性に見合う内容へとさらなる改正が必要です。
私たちのこの主張は、単なる理想論ではありません。現に、スウェーデンでは、交通による死亡もしくは重症の外傷を負うことを根絶するという国家目標を「ヴィジョン・ゼロ」という名のもとに国会決議として採択しています(1997年)。そして、この目標を達成するための方法論と、その科学的根拠を示しています。
第2クルマの抜本的速度抑制と規制を基本とすること
これまでの長い苦難の歴史から私たちが学んだ教訓は、利便性、効率性、そしてスピードという価値を優先して追求してきた「高速文明」への幻想が人々の理性を麻痺させ、真の豊かさとは相容れない危険な社会を形成してきたということです。安全と速度の逆相関関係は明白です。命の尊厳のために、施策の基本に速度の抜本的抑制を据えるべきです。
不確かな「自動運転車」に幻想を与えるのではなく、今あるクルマの速度規制が急務です。クルマが決して危険速度で走行することがないように、クルマ自体に、段階ごとに設定された規制速度を超えられない制御装置(段階別速度リミッター)や、ドライブレコーダー装着を義務化し、速度と安全操作の管理を徹底すべきです。
さらに、道路ごとの制限速度に応じて自動で速度抑制を行う技術(ISA:Intelligent Speed Adaptation高度速度制御システム)の実用化や、衝突被害軽減ブレーキなど「高度安全運転支援車」の普及による二重三重の安全施策を早急に実施すべきです。
第3生活道路における歩行者優先と交通静穏化を徹底すること
子どもや高齢者の安全を守りきることは社会の責務です。人口当たりの歩行者の被害死が諸外国との比較において極めて高いのが現状であり、歩行者を守るためにまず取り組むべき課題は、生活道路における歩行者優先と交通静穏化(クルマの速度抑制)です。
道路や通りは住民らの交流機能を併せ持つ生活空間であり、決してクルマだけのものではありません。子どもや高齢者が歩き自転車が通行する中を、ハードなクルマが危険速度で疾駆し、横断歩道での歩行者優先(道交法38条)が守られていないなどの現状は、その根本から変えなくてはなりません。幹線道路以外のすべての生活道路は、通行の優先権を完全に歩行者に与え、信号のある全ての交差点を歩車分離信号に変え、クルマの速度は少なくても30キロ以下に一律規制(「ゾーン30」など)し、さらに必要に応じて道路のつくりに工夫を加えて、クルマの低速走行を実現しなくてはなりません。この考え方が欧州の常識であり、ドイツやオランダ、イギリスなどにおいて完全に実施されている都市もあります。
このような交通静穏化は歩行者優先の理念の「学び直し」の第一歩であり、ひいては幹線道路の交差点における死傷被害の抑止に結びつくはずです。
同時に、財源措置を伴う公共交通機関の整備を進め、自転車の更なる活用と安全な走行帯確保を緊急課題と位置づけるなら、道路の交流機能は回復し、コンパクトな街並みは活気を取り戻すでしょう。
交通死傷被害ゼロのために、現行の交通システムを安全なものに改善することは、住民の生活の質をも豊かにし、すべての市民の基本的人権の保障につながるのです。